祖母の生前の片付け

    祖母は頭のいい人で、祖父とのお見合いの席でいきなり

 連鶴を折るように言われて、折り紙を渡されたという。

 ちょっと考えて折ったらしい。

 「前から知ってたの?」「知らなかったけど、考えた。」という。

 戦争中に多くの方が食べるものに困っていたと聞く。

 祖母の耳は歩くとゆさゆさ揺れるほどの福耳だった。

 そのお陰かどうか、食べるものに一度も困らなかったらしい。

    第二次世界大戦の時、ドイツ領事館にパートで行っていたので、

 パーティの残り物をいつも貰えたらしい。パンもデニッシュもハム、

 ウインナー、バター、ダンプリングのたっぷり入ったスープ。

 生クリーム、ケーキに至るまで。

 そのバターも発酵タイプの香り豊かなもので今も忘れない味わいだったという。

 食べきれない程貰うので、知り合いに配ると喜ばれたという。

 今、考えるとナチスドイツだけど、怖いことはなかったといっていた。

 ただ、お饅頭だけは貰えなかった。戦争中に小豆のあんこが食べたくて

 困ったらしい。

  戦後は父が将校だったので退職金があった。貨車3台分の衣料と食料品だった。

 これも、食べきれないし、使う衣料も限界があるので、知り合いに配ったそう。

 その祖母がなくなる時一日だけ入院した。

 病院から帰ってきて押し入れを開けるとその戸袋に至るまで、処分されていて

 全く何にもなかった。着物が一枚だけ置いてあって

「御棺に入れる時、着せるきもの」と書かれていた。

 祖母が亡くなる数日前、祖母が母に聞いた。

「持って行こか?」

 当時、私の結婚話が、もちあがっていて、母も祖母も反対だった。

 我が家では人が亡くなる時、家族になにかしら問題があれば

 あの世に持って行って貰えるというジンクスみたいなものがある。

 母は「いいわ。大丈夫。」「ほんとにいいの?」で、結局わたしは

 その人と結婚した。

 その時、私の姉妹には別件で悩み事があった。

 あとで「おばあちゃんが持って行ってくれた。」と言っていた。

 何らかの解決があったらしい。

 でも、亡くなる人にもいろいろあって、成仏しないで

 ここに留まろうとする方や亡くなったと思っていない方には 

 持って行って貰えないかもしれない。

 今から思うと、わたしは、元夫でなければ

    結婚は出来なかったような気がする。

 とにかくまあ、振られてばっかりの青春時代だったから。

 もし、お身内の方が無くなったとしたら、自分達

 ではどうも出来ない悩み事は

 その方に持って行ってもらったらどうでしょう。

 その方との関係に特に問題がなければ持って行って貰えるのでは?

    また、あなたが亡くなる時に 子供や親しい人の何かを

 持って行ってあげたら 旅立つための心残りも無くなると思う。